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磐田駅 〜静岡県下有 数の内陸工業都市に存在した中堅貨物取扱駅の歴史〜
2021.4.11作成開始 2021.4.25公開  2021.6.27訂補

《目次》
はじめに
磐田駅の関連年表
磐田駅に接続する専用線一覧
磐田駅の貨物取扱量(ト ン)の推移
日本たばこ産業(株)の鉄道貨物輸送
富士製粉(株)の鉄道貨物輸送
(株)遠州日石の鉄道貨物輸送
鈴木自動車工業(株) の鉄道貨物輸 送
最後に


■はじめに  

1995.7磐田駅
 第16回「貨物取扱駅と荷主」で、筆者の故郷・静岡県掛川市の身近に ある貨物取扱駅として、天竜川駅を 取り上げたが、もっと近くに忘れられない駅が ある。それが磐田駅である。

 Jリーグチームの名門「ジュビロ磐田」(2021年シーズンはJ2に降格したままだが…)によって、「磐田」の名は全国 的に知られることになったが、ジュビロ磐田の前身がヤマハ発動機サッカー部であることに象徴されるように、磐田市は静 岡県内有数の工業都市で あり、その代表駅・磐田駅も工業都市らしく貨物取扱駅として1990年代半ばまで機能していた。

 その頃の磐田駅構内には貨物用の側線や貨物上屋が残り、日通のトラックが出入し、JRコンテナが積み上げられ、ワムやタキがたむろするといった風景があ り、筆者にとってある 意味、天竜川駅より貨物取扱駅としての雰囲気は色濃く残っていた印象だ。

 接続する日本たばこ産業(株)(JT)の専用線は、距離はそれほどでもなく、天竜川駅の日本通運(株)専用鉄道のような謎めいた雰囲気こそ無いものの、 窓の少ない 巨大な倉庫にワムやタキ が出入りして独特な雰囲気が漂っていた。車窓からも線路が倉庫内に引き込まれていく様子がよく見えて、電車で傍を通る度にいつも夢中で観察したものだ。

 そんな磐田駅の記憶が筆者には残っているものの、現在では橋上駅舎化され、貨物ホームの敷地にはビジネスホテルが建ち、躍動する浜松大都市圏の一旅客駅 といった佇まいである。この程、『磐田市統計書』から品目別貨物取扱量の推移のデータが入手できたため、第20回「貨物取扱駅と荷主」は磐田駅を取り上 げ、同駅の貨物輸送の歴史を辿ってみることにした。



■磐田駅の関連年表  

年  月
内     容
1889(明 22)年04月 東海道本 線に中泉駅が開業
1938(昭 13)年03月 名古屋地 方専売局 中泉葉煙草再乾燥場が設立。試験作業開始([1] p2)
1942(昭 17)年10月 中泉駅が 磐田駅に改称
1948(昭 23)年04月 磐田町は 市制施行により磐田市となる
1949(昭 24)年04月
(株)遠 州日石が会社設立同社webサ イトより)
1959(昭 34)年12月 富士製粉 (株)は磐田精麦工場を廃止([8]p436)
1960(昭 35)年12月 富士製粉 (株)は磐田工場の精麦、澱粉跡地に月産1,000トンの配合飼 料設備完成([8]p436)
1963(昭 38)年09月
日本専売 公社 磐田葉たばこ再乾燥工場の新工場が竣工([1] p12)
1965(昭 40)年02月
日本専売 公社 磐田葉たばこ再乾燥工場の新倉庫が竣工([1] p12)
1966(昭 41)年02月
日本専売 公社は「磐田葉たばこ再乾燥工場」を「磐田原料工場」と改称([1] p12)
1967(昭 42)年04月
磐田駅に 自動車基地が設置(『鉄道貨物輸送近代化の歩 み』1993年、p51)
1967(昭 42)年08月 鈴木自動 車工業(株)磐田工場(四輪車)が完成同社webサイトより)
1968(昭 43)年06月
富士製粉 (株)磐田配合飼料工場に月産1万トンの近代化設備が完成([3] p34、[8]p441)
1970(昭 45)年
富士製粉 (株)磐田配合飼料工場は主原料用500トンサイロなどの増設 で月産能力1万2,000トンを達成([3]p34)
1971(昭 46)年04月
貨物駅の 西浜松駅が開業
1973(昭 48)年01月
富士製粉 (株)磐田工場は副原料用鉄板サイロ(540トン)増設([8]p444)
1978(昭 53)年08月
富士製粉 (株)磐田工場は製品バラタンク増設(250トン)、月産12,000トンになる([8]p446)
1979(昭 54)年09月
日本専売 公社は最新鋭の東海工場の操業開始([2] p169)、磐田原料工場が閉鎖
1990(平 02)年03月
富士製粉 (株)磐田配合飼料工場が廃止([3]p55)
1995(平 07)年10月
日本たば こ産業(株)磐田工場の専用線におけるタバコ輸送のハワム輸送 廃止。日本アルコール販売(株)のタンク車輸送のみ残る
(澤木 良直「磐田の専用線終幕」『レイル・マガジン』No.155、1996年、p86)
1996(平 08)年02月
日本たば こ産業(株)磐田工場の専用線が廃止(前掲『レ イル・マガジン』No.155、p86)



■磐田駅に接続する専用線一覧  

専  用 者
第 三者使用
作 業方法
作 業
km
S26 S28
S32
S36
S39
S42
S45
S50
S58
備   考
日本専売 公社 名古屋地方局
日本通運 (株)
内外輸送(株)
日通機
1.0










富士製粉 (株)
日本通運 (株)
駿遠運送(株)
国鉄機
手押
0.1
-









(株)遠 州日石
(有)磐田製材所
日本通運 (株)
駿遠運送(株)
国鉄機
0.1
-
-







(有)磐 田製材所は
S39年版まで
静岡県販 売購買農業協同組合
連合会
日本通運 (株)
磐田運送(株)
手押
0.1

×
×
×
×
×
×
×
×

 -:未開業、〇:存在、×:廃止



■磐田駅の貨物取扱量(トン)の推移  
 磐田駅の貨物取扱量は、発送も到着も1970(昭45)年度がピークで、瞬間風速的に年間35万トンを超えている。しかし、その後も減ったとは言え年間 20万トン前後を維持していたが、1980年代半ばからは急激に減少している。富士製粉(株)向けの飼料原料輸送が1989(平元)年度まで行われていた こともあり、 到着量が発送量を大きく上回る時期が殆どであった。

  年 度
発 送
到 着
合  計
  年 度
発 送
到 着
合  計
 年 度
発 送
到 着
合  計
1960
78,100
124,800
202,900
1972
44,379
182,878
227,257
1984
41,875
117,008
158,883
1961
69,828
149,673
219,501
1973
38,247
183,373
221,620
1985
41,450
115,946
157,396
1962
70,811
146,686
217,497
1974
35,044
185,083
220,127
1986
37,107
94,723
131,830
1963
67,133
165,021
232,154
1975
36,789
159,007
195,796
1987
20,438
84,945
105,383
1964
58,135
169,518
227,653
1976
35,659
178,873
214,532
1988
19,762
73,293
93,055
1965
47,283
163,692
210,975
1977
34,537
166,704
201,241
1989
26,770
57,696
84,466
1966
46,273
182,561
228,834
1978
33,186
170,168
203,354
1990
21,207
23,075
44,282
1967
75,665
178,592
254,257
1979
38,833
171,900
210,733
1991
9,428
22,539
31,967
1968
102,556
190,791
293,347
1980
47,541
169,900
217,441
1992
8,772
18,729
27,501
1969
116,127
209,313
325,440
1981
54,205
156,848
211,053
1993
8,030
9,744
17,774
1970
122,208
232,106
354,314
1982
53,975
144,152
198,127
1994
5,617
12,592
18,209
1971
80,285
200,630
280,915
1983
45,017
133,766
178,783
1995
3,556
3,105
6,661
(『磐田市統計書』、『静岡県統計年鑑』より作成)


発 送
年  度
1961
1963
1965
1967
1969
1970
1971
1973
1975
1977
1979
野 菜
16,566
22,474
13,959
7,168
5,444
6,618
7,296
2,669
2,979


紙 巻たばこ
5,734
4,971
9,645
4,165
4,140
5,251
6,418
8,287
8,870
9,524
20,799
葉 たばこ
9,100
12,271
5,224
15,535
12,133
10,454
12,149
11,011
10,481
12,358
5,190
機 械・車両
9,178
8,039
6,522
30,888
78,257
76,518
5,273
191
11


ア ルコール
2,660
2,567
2,283
2,223
2,843
3,176
2,701
3,693
3,200
3,873
4,982
繊 維製品
1,585
1,064
382
794
2,029
3,495
2,689
904
411


飼 料






32,253
4,239
3,594
1,739
1,088

6,472
3,258
1,681
94
332
48





(『磐田市統計書』より作成)

  「機械・車両」の項目に鈴木自動車工業(株)〔現、スズキ(株)〕の自動車輸送が含まれると思われる。上述の通り1967(昭42)年4月 に磐田駅に自動車 基地が設置され、発送量が急増している。

 しかし、あの狭隘な磐田駅構内にモータープールがあり、車運車(ク5000形)への積込みが行われていたとは、俄かには信じ難い。キャリアカーで運ばれ て きた自動車をすぐにク5000形に積み込んでいたため、広大なモータープールのようなものは不要だったのかもしれないが…。

 ただ1971(昭46)年4月に広大な自動車基地を有する西浜松駅が開業すると、磐田駅の自動車基地は廃止されたようで、1971年度から「機械・車 両」は急減している。磐田駅の貨物取 扱量のピークはその前年の1970(昭45)年度である。

年  度
1980
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
紙 巻たばこ
29,792
35,486
34,333
27,777
30,503
28,127
24,607
12,137
12,287
16,126
9,955
1,166
1,584
-
-
-
葉 たばこ
5,595
6,158
7,799
7,054
5,866
7,777
8,020
5,831
5,929
8,529
6,070
4,283
3,306
3,849
1,372
1,058
ア ルコール
4,980
5,560
5,550
4,750
500
500
620
620
555
610
2,700
2,655
2,970
3,165
3,300
2,055
飼 料
822
427
374
372
-
-










(『磐田市統計書』より作成)

 「紙巻たばこ」の発送量のピークは1981(昭56)年度で、1979(昭54)年から生産が新鋭の東海工場に移転しても、すぐに磐田駅からの貨車輸送 が減らなかったという のは意外である。むしろ1986(昭61)年度までは減り方が緩慢とも言え、国鉄からJR貨物に民営化された1987(昭62)年度から急減しているが、 このタイミングでコンテナやトラックへ の転換が進んだのかもしれない。
 そして「葉たばこ」の発送が1995(平7)年度まで継続したのに対して、「紙巻たばこ」は1992(平4)年度で終了している。

 「アルコール」の発送量の推移も興味深い。1970年代後半から増加し、年間5千トンレベルとなったが1984(昭59)年度には500トンと急減し た。そのまま 廃止になるかと思いきや、1990(平2)年度から再び増加し2千〜3千トンで推移したまま1995年度に廃止となった。
1995.7 磐田駅


到 着
年  度
1961
1963
1965
1967
1969
1970
1971
1973
1975
1977
1979
葉 たばこ
13,235
14,952
10,238
25,932
22,201
24,088
23,508
22,301
26,288
25,040
25,902
ア ルコール






3,690
3,693
3,864
5,500
-
繊 維
3,724
3,473
4,448
4,280
5,850
4,783
4,907
3,949
2,961


飼 料
12,832
17,331
26,611
23,328
33,041
27,220
19,516
16,613
7,395
5,651
5,389

2,029
1,967
2,935
2,135
3,833
6,571
7,898
10,529
9,975
8,294
8,900

7,925
9,794
8,421
6,825
6,432
9,019
10,524
2,521
975
110
315
と うもろこし
-
25,149
36,260
49,044
56,229
72,304
56,367
59,932
55,397
69,149
69,291
脱 脂大豆
6,078
10,024
22,299
84,950
91,574
114,855
21,500
17,071
13,357
12,273
14,073
糖 蜜
10,396
9,660
9,953
8,090
10,304
10,934





鉄 鋼(線材・銑鉄)
3,807
2,510
3,244
7,017
7,407
9,582
11,107
10,850
7,329
5,436
11,522
肥 料
9,918
9,413
10,899
12,421
13,228
12,873
11,998
13,012
9,463
13,097
14,465
石 油・アルコール
13,642
12,476
6,994
7,449
8,291
10,812





石 油






9,003
6,528
4,166
6,213
531
(『磐田市統計書』より作成)

 「とうもろこし」や「脱脂大豆」の到着は、富士製粉(株)磐田配合飼料工場への原料輸送と思われる。1960年代後半に同工場の生産能力増強が行われた が、それに伴い原料の到着が増加していることが伺われる。この到着量のピークは1970(昭45)年度であり、上述の自動車輸送の発送が増加した時期と重 なり、磐田駅の貨 物取扱量のピークを形成した。その後、脱脂大豆は急減するものの、とうもろこしは年間6万〜7万トンで推移し、1988(昭63)年度まで同5万トン以上 を維持し ていた。

 また1970年度まで項目に存在した「糖蜜」も気になるところだ。年間1万トン程度で安定しており、当時の磐田アルコール工場でアルコールの発酵原料と して使われていたのかもしれない。

 石油は1970年度の統計まで「石油・アルコール」のため、石油のみの到着量は不明なのは残念だが、年間1万トンを下回るレベルで推移していたと想像さ れる。この輸 送は基本的に遠州日石(株)向けだったと思われる。1979(昭54)年度に急減し、1980(昭55)年度にV字回復しているのが気になるが、下記項目で考察するように油槽所の整備による一時的な減少だったようだ。

年  度
1980
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
葉 たばこ
29,021
30,583
29,918
29,540
25,421
28,127
25,783
26,019
13,418
14,861
飼 料
4,001
4,026
2,491
2,309
-
-





11,709
9,220
11,030
7,818
3,840
7,110




と うもろこし
70,020
67,290
62,160
61,620
58,530
54,900
53,340
52,920
51,740
34,380
脱 脂大豆
12,017
11,994
11,493
10,230
9,990
9,480




線 材・銑鉄
8,642
4,115
1,704
2,015
143
-




肥 料
12,749
11,037
10,247
10,806
12,415
10,334
6,989
6,006
7,125
7,068
石 油
4,417
4,482
1,751
948
-
-




(『磐田市統計書』より作成)

 葉たばこの到着は、1967(昭42)年度から1987(昭62)年度まで20年間に亘って年間2万〜3万トンを維持していた。葉たばこは発送も同時期 に同1万トン前後で推移 しており、JT専用線が葉たばこの発着に活用されていたことがよく分かる。

 1980(昭55)年度から急回復した石油だが、結局1983(昭58)年度をもって消滅している。遠州日石の油槽所は1988(昭63)年11月時点 の空中写真でも確認され、油槽所 が廃止される前にタンク車輸送を終了したようだ。

 また肥料の到着が1992(平4)年度まで残っていたというのは興味深い。ワム車による到着があったと想像されるが、拙web「専用線とその輸送」の湖山駅の鳥取県経済連でも述べた通 り、宇 部港駅の宇部興産(株)専用線からハワムによる化学肥料の輸送が1990年代半ば残っていたことを確認している。磐田駅の肥料の到着は宇部興産が発荷主で あるという根拠は無く、同社以外の肥料メーカーでも、1990年代まで車扱輸送が行われていた可能性は充分にあるが、磐田駅のような小規模貨物取扱駅にも 車扱による肥料の到着が1990年代まで存在したという事実は、改めて指摘しておきたい。

年  度
1990
1991
1992
1993
1994
1995
葉 たばこ
15,686
15,716
15,951
9,108
11,236
2,729
肥 料
6,246
5,856
2,137
-
-
-
(『磐田市統計書』より作成)



■日本たばこ産業(株)の鉄道貨物輸送  

1995.3磐田駅
 名古屋地方専売局時代に始まり、日本専売公社を経て日本たばこ産業 (JT)まで、磐田駅の貨物取り扱いの発着における荷主であり続け、数量こそ多いわけではないが長年、安定的な取扱量が継続していた。1979(昭54) 年に 磐田原料工場としては廃止されても、倉庫として専用線が維持されたのは非常に興味深い。

 輸送された「葉たばこ」や「紙巻たばこ」は、発送と到着のそれぞれがあり、日本全国にJTの専用線や工場や倉庫などの拠点があることから、輸送体系の解 明は困難である。

 その中で輸送先として明確に分かっているのは、飯田町駅向けの輸送である。
 1986(昭61)年11月にJTのタバコ輸送は大部分がコンテナ輸送に転換されたが、一部転換できなかったものがワム80000形で輸送していた。定 期的に運用しているのは磐田・西浜松〜飯田町間が ある。([6] p36)

 1995(平7)年当時、JTの専用線は矢板、宇都宮(タ)、友部、倉賀野、西浜松、西富井の各駅に残存していたが、西富井駅の専用線はコンテナ化され ずワム80000の入線が残っており、磐田駅との間でワムハチの運用があったかもしれない。


 JT専用線は、タバコ輸送廃止後も最末期までアルコールの発送が残っ たわけだが、今でも磐田アルコール工場は、日本アルコール産業(株)磐田工場として稼働を続けており、JTの倉庫等の施設は全て撤去され宅地となったが、 アルコール工場やタンク群は宅地を取り囲むように立地している。

 タンク車によるアルコール輸送の向け先は不明だが、日本アルコール販売(株)の新潟貯蔵所(新崎駅)、富山作業所(西富山駅)、内外輸送(株)横浜支店 (新興駅)といったアルコールの貯蔵先が考えられる。

 尚、1979(昭54)年3月31日現在で、内外輸送(株)の磐田駅常備のアルコール専用貨車として、タサ3000形が3両、タキ3500形が5両あ る。

磐田原料工場の全景([1]巻頭カラー)



■富士製粉(株)の鉄道貨物輸送  

富士製粉(株)磐田配合飼料工場([3] p35)
 富士製粉(株)は1959年まで精麦工場を磐田に設置していたのだ が、この当時の鉄道貨物輸送の状況は詳細不明である。一方で、飼料工場となって以降、磐田駅で最大取扱量を誇る荷主として君臨した。

 製品である飼料の発送でも鉄道輸送は活用されたようだが、飼料原料において貨車輸送の役割が大きかった。

 物資別適合貨車として穀物専用バラ貨車のホキ2200形が1966(昭41)年9月に登場し、同年10月から全国各地で本格的に運用を開始した。そ の1つに清水港(荷送人:全購連)〜磐田(荷受人:富士製 粉)があり、品名は「とうもろこし」である。ホキ2200形の配置貨車は4両で、使用車両は1日3両、月間輸送トン数は2,250トンである。([4] p35)

 1971(昭46)年7月に名古屋臨海鉄道の知多駅東海サイロ(株)〔後の全農サイロ(株)〕の専用線が設置され、同年に は知多〜磐田間の飼料原料積のホキ8両を快速貨物列車で輸送 して いた。1973(昭48)年からホキ9両となり、1975 (昭50)年3月からは笠寺〜西浜松間のセメント専用列車に併結して輸送された。1980(昭55)年10月には、金指行 きの石油、飼料原料と磐田行きホキ9両、その他をまとめて専 用貨物列車を増設した。([5]p89、p97)


 ホキ9両による年間輸送量を計算すると、30トン積み×9両×250日=67,500トンとなる。上記品目別到着量で、「とうもろこ し」と「脱脂大豆」の1975年度は計68,754トンと 近い数量となる。そのため、基本的に原料の鉄道輸送は当初は清水港駅が発駅だったが、知多駅の東海サイロからの発送が始まってからは全て発送元は知多駅に 変更となった と考えて良さそうである。

 1986(昭61)年3月末、全国農業協同組合連合会(全農)から富士製粉に対して磐田工場に委託していた配合飼料の生産を停止するとの通告があった。 磐田工場は全国の全農協力工場の中でも高い生産性を持ち、品質管理でも高評価を得ていた。しかし農産物の輸入自由化を受けて、全農は飼料工場を大幅に集約 し、統廃合に踏み切ることとした。([3]p52-53)

 1986年4月に発表された全農の「東海地区配合飼料供給体制整備」の骨子は下記の通り。([3]p53)
(1)
整備対象地域を東海4県(静岡、愛知、三重、岐阜)に山梨県を加えた5 県とし、域内6工場のうち、「岐阜県くみあい飼料」、「富士製粉磐田工場」、「伊勢湾飼料畜産飼料工場」、「山梨くみあい飼料」の4工場の飼料製造を停止 する
(2)
東海くみあい飼料、愛知くみあい飼料を合併し、この合併会社が静岡県臨 海地区に新工場を建設し、1会社3工場体制で5県に供給する
(3)
整備の実施時期は、1988(昭63)年度を目途とする

 富士製粉は磐田工場の存続に向けて新規事業の模索等を行ったが、いずれも採算の目途が立たないことから磐田工場は1990(平2)年3月末に閉鎖され た。跡地は宅地となり、当時の面影は全く残っていない。



■(株)遠州日石の鉄道貨物輸送  

1976.2磐田駅 「地図・空中写真閲覧サービス」より

1983.10磐田駅 「地図・空中写真閲覧サービス」より

 (株)遠州日石は、今なおエネオス系のガソリンスタンド経営などで盛業中であり、磐田原台地の磐田市匂坂上には磐田油槽所がある。この油槽所は磐田駅前 の立地から移転したものと思われる。

 同社は1949(昭24)年に設立され、「専用線一覧表」から1953(昭28)年〜1957(昭32)年の間に敷設されたことが分かる。敷設された当 初は、日本石油(株)横浜製 油所(入江駅、新興駅)から石油が到着していたと想像されるが、名古屋港の9号地に立地する日本石油(株)名古屋油槽所に、名電築港駅(後に汐見町駅)か ら 専用線が敷設された1960(昭35)年頃からは同油槽所から石油が到着していたと思われる。

 遠州日石の油槽所は、1976(昭51)年と1983(昭58)年の空中写真を比較すると、明らかにタンクの数や配置が異なる。上記の貨物取扱量の推移 で も触れているが、1979(昭54)年度に磐田駅の石油の到着量が急減していることから、その時期に油槽所の再構築をしたと思われる。

 その後、1983(昭58)年度をもって専用線は廃止されたようで、翌年度以降から磐田駅の石油の到着が消滅している。油槽所自体は1988(昭63) 年11月時点の空中写真で残っていることが確認されるが、1990年代には上述の磐田原台地に立地する磐田油槽所に移転したようだ。現在は跡地は磐田駅の 南口としてロータリーが整備され、跡形も無い。



■鈴木自動車工業(株)の鉄道貨物輸送  

([7]表紙)
 物資別適合輸送の花形であるク5000形による自動車輸送は、 1966(昭41)年7月に営業試験輸送、同年10月に本格輸送が開始された。鈴木自動車工業(株)がスタートしたのが1967(昭42)年4月で、磐田 駅が新基地として加わった。

 4月1日から広島、志免行きで始まったが、同年10月1日のダイヤ改正で磐田駅発宮城野行き1両、岡山(操)行き1両、広島行き1両、志免行き2両の計5両の輸送を開始した。([7]p16-17)
 また1967年度時点で、磐田駅常備のク5000形は27両で ある。([7]p64)

▼磐田駅 鈴木自動車の自動車輸送実績 (単 位:千トン)
4 月
5 月
6 月
7 月
8 月
9 月
10 月
11 月
12 月
1 月
2 月
3 月
年 度計
0.5
0.6
0.6
2.3
2.4
2.5
3.7
3.7
3.1
3.0
3.6
4.0
30.0
([7]p61より作成)

 1971(昭46)年4月26日に浜松駅の貨物取り扱いを分離する形で西浜松駅が開業し、自動車基地が新設された。同時に磐田駅の自動車基地が廃止され たと思われる。ちなみに鈴木自動車としては1983(昭58)年度にク5000形による自動車輸送を廃止している。



■最後に  
 磐田駅の鉄道貨物の歴史を振り返ると、飼料原料や葉たばこ、紙巻たばこ、アルコール、石油、自動車など多種多様な品目の取り扱いがあり、フロント設備は 狭隘ながらも専用線は複数あり、1995年度まで定期貨物列車の発着が存在した。1990年代初頭の東海道本線は、静岡貨物〜西浜松間に島田、磐田、天竜 川の貨物取扱駅が存在していて、今となっては隔世の感がある。

 磐田駅のかつての荷主であるJTの倉庫、富士製粉の飼料工場、遠州日石の油槽所は全て閉鎖の上、再開発されており面影は殆ど残っていない。筆者が写真で 記録できたのも、JT専用線と磐田駅構内の一部分のみであり、些か遅きに逸した感はある。

 現在、磐田駅の1日平均乗車人員は8,000人を超え(2019年度)、静岡県下の新幹線非停車駅の中では利用者のかなり多い方に位置付けられる。日中 でも上り下りとも10〜20分間隔で電車が来るが、その間隙を縫って高速コンテナ列車が駆け抜けていく。磐田駅は今なお東海道メガロポリスにおける鉄道貨 物輸送の動脈の真っ只中に位置していることは間違いないが、貨車の入れ換えが忙しかった時代を想像することは年々難しくなっており、現在も臨時貨物取扱駅 ではあ るものの、実質的に廃止となっていると考えて問題は無いであろう。




[1]『磐田原料工場のあゆみ』日本専売公社磐田原料工場、1979年
[2]『公社創立三十周年記念写真集 私たちの歩み』日本専売公社、1981年
[3]『富士製粉60年の歩み』富士製粉株式会社、2002年
[4]中津川 亨「新しい貨物輸送(四) 〜〜小麦、とうもろこしのバラ輸送〜〜」『貨物』1967年3月号
[5]『15年のあゆみ』名古屋臨海鉄道株式会社、1981年
[6]渡辺 喜一「JR貨物の車両ガイド@貨車篇」『鉄道ダイヤ情報』No.42、1987年
[7]『貨物要覧 昭和42年度』静岡鉄道管理局
[8]『日東富士製粉100年史』日東富士製粉株式会社、2014年

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