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鳥取県経済農協連 (湖山駅)
2018.7.8作成開始 2018.7.22公開


2018.5湖山駅

2018.5湖山駅
 倉庫前にバラストの線路敷が残る


 山陰地方の鉄道貨物輸送の拠点は、現在では伯耆大山駅にほぼ集約されて おり、湖山駅はオフレールステーション、東松江駅は新営業所でそれぞれ貨物列車の発着は無い。しかし湖山駅は、1970年代に鳥取駅の高架化に伴い、同駅 から移設する形で石油、ガス、農協、そして県経済連の専用線が整備された専用線ターミナル≠フ機能とコンテナや自動車基地も備えた山陰地方を代表する近 代的な貨物ターミナルであった。

 湖山駅の専用線群は、国鉄末期の鉄道貨物廃止の嵐を生き延び、1990年代半ばまで命脈を保った。その中でも鳥取県経済連の専用線は、ワム車による肥料 到着に使われていたのだが、そのような専用線が、平成時代まで現役であったことは驚愕である。残念ながら現役時代に訪問することは叶わなかったのだが、そ の輸送体系を是非とも記録に残しておきたいため、第9回「専用線とその輸送」は、湖山駅の鳥取県経済農協連を取り上げる。


 湖山駅は1969(昭44)年10月1日、コンテナ基地が新設された。 さらに鳥取駅付近の鉄道高架化計画に伴い、鳥取駅の貨物設備(35万トン/年)、専用線8社が湖山駅東部に移転し、1974(昭49)年12月12日に開 業した。その当時の配線図は下記の通り。


が県経済連専用線、が市農協専用線  (『貨物』1975年2月号、p13より抜粋)

 また1975(昭50)年当時の鳥取県経済農協連の専用線概要は、下記の通りであった。
所 管駅
専 用者
作 業方法
作 業キロ
総 延長キロ
記 事
湖山
鳥取県経 済農協連
国鉄機  日通機
(機) 0.4
0.8
共同使用 線
(「昭 和50年版 専用線一覧表」より抜粋)

 湖山駅の専用線は、『北陸・山陰820駅』(小学館、1993年)に日本石油や三菱石油などと共に県経済連=iさらに市農協も)の名が見られ、発刊当 時から気になっていた。何しろ『JR・私鉄全線 各駅停車』シリーズで専用者名が明記されている駅は珍しく、石油会社はともかく、県経済連や市農協の専用 線はいかにも謎めいていた。

 しかしその輸送体系を調べる術も無く、筆者の心の中に気になる専用線の1つとして、澱のように存在し続けていた。

 それが明らかになるのは、国会図書館で閲覧した『運輸タイムズ』の記事であった。車扱輸送のコンテナ化として記事になったもので、最盛期の輸送では無い と思わ れるが、それでも末期の輸送体系が詳らかになったのだ。それによると、例年、宇 部港〜湖山間ハワムによる肥料輸送秋から翌春まで行われてきたが、この輸送が1995(平7)年10月 23日から鉄道コンテナ輸送に転換された。コンテナ輸送は、宇 部〜湖山間で、1日当たり4個、1996(平 8)年3月末まで実施する。

 この記事でさらに興味深いのは、専用線を所有する鳥取県経済連は、湖山駅にある倉庫の専用線において、コンテナ輸送での活用も検討したが、取卸場に柱が多く車上荷役 のネックとなり断念したとある点だ。1日当たり4個の輸送は、旧型のコキ5500形でちょうどコキ1両分に過ぎない輸送だが、それでも車上 荷役に よる専用線維持を検討したという事実に、1990年代半ばの時点でも高速道路整備が遅れ、道路事情の良くなかった山陰地方特有の事情が垣間見られる。

 一方、この肥料輸送の発荷主は、当然宇部興産(株)である と思 われる。同社は、「くみあい硫安」「くみあい化成」といった化学肥料を宇部市内の工場で製造している。宇部港駅は、美祢駅との間で行われていた同社向け石 灰石のピストン輸送の到着 駅としての印象が強いが、ハワムによる化学肥料の発駅としての機能が、1990年代半ばまで残っていたことは鉄道貨物輸送史にとって、無視できない出来事 であ ると個人的には考えている。

 何しろ車扱による肥料輸送と言えば、典型的なヤード系貨物≠ナ鉄道貨物輸送への依存度も高かった。しかし、ヤード系の輸送体系から拠点間直行輸送への 再編が行われた1984(昭59)年2月ダイヤ改正を機に、肥料輸送は全面的にトラックやコンテナなどに転換され、短期間で車扱輸送が消滅していった印象 が強い。それだけに今回の宇部港〜湖山間のような細々とした輸送が、JR貨物になって以後10年弱も残っていたことに驚きを禁じ得ない。

 さらに湖山駅に関して興味深いのは、Ushiyanさんのwebサイト「炭鉄別館」 内にある、湖山駅のN協専用線の 記事だ。1989(平元)年3月当時の鳥取市農協専用線にハワムによる肥料輸送が残っていたことが分かり、この輸送も宇部港駅からの到着なのか定か ではないが、鳥取県経済農協連と鳥取市農協の両専用線が、平成時代までハワムによる肥料輸送が継続していたことになる。湖山駅が専用線ターミナルとして貨 物列車が発着していた末 期まで機能していたことが、よく分かる事例と言えよう。

 湖山駅はその後、1997(平9)年10月には石油・コンテナ列車の設定が廃止され、コンテナ輸送は自動車代行化された。石油元売会社の各油槽所は閉 鎖、専用線 共々撤去されたが、鳥取県経済農協連の倉庫は往時の姿を留めている。倉庫の目の前の線路は剥がされたもののバラストが残り、かつて専用線が存在したことを 無言のまま 主張しているようにも感じる。

 山陰地方の高速道路網の整備は急速に進み、もはや内陸油槽所を必要としない水準であると思われるものの、湖山駅周辺にはこれら肥料倉庫やLNG、LPG 基地など物流拠点の集 積は維持されている。現在も鉄道コンテナによる宇部からの肥料輸送が継続しているのか残念ながら不明だが、一方で今年(2018年)の夏、山陽本線は豪雨 による被災 で貨物列車の運行が長期に亘って寸断している。

 鉄道貨物輸送にとって極めて重要な幹線系統である山陽筋のリダンダンシー確保という観点からも、湖山駅を含めた山陰筋の再評価を行いところだ。今回の肥 料輸送だけを取り上げても説得力に欠けるというこ とは、百も承知なのだが…。


参 考文献
『貨物』1969年11月号、33頁
『貨物』1975年2月号、13-14頁
『運輸タイムズ』1995年10月23日号、2面

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