近距離ミニコン輸送 渡辺一策,貨車運用の興味『鉄道ピクトリアル』第44巻第4号,通巻第589号,1994年,47頁
常識的にはトラック輸送の範囲であるわずか25kmの区間でJRの貨車輸送が行われているケースがある。都会の道路混雑を避ける新しいスタイルの輸送である。
花王(株)は川崎の集荷基地から製品を各地のデポへ配送しているが,特に東京近郊ではトラックが渋滞に巻き込まれ到達時間の不明確,効率低下に悩まされるようになっていた。これを解決するために同社はJR貨物に注目,JR側もこれに協力して1989年まず八王子向け輸送をJRで実施することになっ
た。荷姿は花王が自社専用に使用している2トンコンテナで,これをトキ25000形式に4個積み込み緊締している。列車は川崎貨物を深夜発,武蔵野線経
由八王子に早朝着,既存のスジの利用であるが,1列車にトキ4両が組み込まれた。そして,これら専用緊締装置を取り付けたトキ25000形式は花王ミニコンと同じカラーのライトグリーンに塗り替えられた。JRの貨車が一荷主のために塗色変更されるとは国鉄時代だったら考えられない珍事である。
この輸送の成功を確認した花王は翌1990年さらに近距離で同じ市内にある梶ヶ谷(タ)駅へも同じ方式に切り換え,超短区間のJR貨車輸送が実現したのである。2区間での専用トキ25000形式は計11両が川崎貨物駅常備として配置されていた。
ところが1993年になって,花王のデポが移転のため先行した八王子ルートがなくなってしまった。現在は梶ヶ谷往復のスジだけが1日2両(4765〜8360レ),配置6両のトキで利用されている。なお余った改造トキは初狩,横浜本牧などへ転属となり,グリーン塗色のまま他のトキに混ざって活躍しているのを見ることが出来る。
花王株式会社
総合家庭用品の大手メーカーである花王は、洗剤やシャンプー、ヘアケア製品、化粧品等で有名だが、こうした製品の輸送に全国規模で鉄道を利用している。
輸送ルートとしては、和歌山と川崎の主要工場から関東・関西にあるロジスティクスセンターへの輸送と、酒田・宇都宮・鹿島・愛媛等の各工場から消費地向けの輸送とがある。
花王にはさまざまな輸送モードを最適配分して利用するという物流ポリシーがあり、複数の輸送モードを持つことで製品の安定供給を行なっているが、鉄道コンテナは主に中長距離で利用している。
本社 担当者より
・鉄道コンテナは、中長距離輸送でコストメリットがある他、輸送品質・リードタイム・出荷の波動対応などの点でも利用価値があります。
・モーダルシフトの観点からは、鉄道は地球に優しい物流手段である点、将来の少子化によるドライバー不足への対応準備として活用しています。今後は長距離輸送についてはできる限り無人に近い輸送モードを選択していきたいです。
花王(株) 和歌山工場 運輸タイムズ,1999年8月9日
和歌山工場は花王(株)の主力工場で、衣料用洗剤などの家庭用製品を製造出荷している。さらにこれらの原料段階の液体品などの化学品を自社の他工場へ供給している。同工場は輸送のモーダルシフトに積極的で、液体化学品輸送をローリーからISOタンクコンテナなどの私有コンテナによる鉄道輸送へ転換を進めている。
|
![]() 03.4 コンクリート混和剤 |
同工場がISOタンクコンテナによる鉄道輸送を開始したのは1996年。川崎工場への
界面活性剤の輸送が最初だった。発着駅は梅田駅と東京(タ)駅だった。その後着駅を川崎工場に近い川崎貨物駅
へ変更した。さらに酒田工場ゆきと鹿島工場
ゆきの原料輸送も鉄道輸送を開始した。輸送区間はそれぞれ大阪(タ)〜新潟(タ)間と大阪(タ)〜東京(タ)間。 ISOタンクコンテナの取扱駅が限られているため配送距離が延びている。酒田工場は新潟(タ)駅から約170km、鹿島工場は東京(タ)駅から200km以上もある。
それでも拠点間のモーダルシフトの利点と意義は大きいと、同工場はしている。1999年夏現在これら3ルートでISOタンクコンテナを使用している。1999年7月現在、積載量はすべて16トン(総重量20トン)に抑えている。なお
ローリー車は規制緩和車でも13トンほどしか積載できない。また川崎工場向けのフル積載化(総重量24トン)を目指し、川崎貨物駅から川崎工場まで
特殊車両通行許可を申請した。
和歌山工場〜梅田駅間の通行許可は1999年6月に取得してある。
発工場 |
発駅 |
着駅 |
着工場 |
|||
花王 和歌山工場 |
−トラック→ |
梅田 |
=鉄道⇒ |
川崎(貨) |
−トラック→ |
花王川崎工場 |
新潟(タ) |
−トラック→ 170km
|
花王酒田工場 |
||||
東京(タ) |
−トラック→ 200km超
|
花王鹿島工場 |
このISOタンクコンテナ利用が始まったきっかけは、1995年ころに出入りの通運関係者から、ISOタンクコンテナを国内貨物輸送にも利用できると、花王ロジスティクス部門(和歌山)の松尾輝雄マネージャーが聞いたことだった。同工場ではドライ品の輸送を、長期の輸送力安定と環境面への配慮から鉄道コンテナへシフトし始めていた。そして和歌山コンテナセンターから毎月50個ほど発送するまでになっていた。しかし液体品についてはほとんどがローリー輸送だった。当初はJR貨物にISOタンクコンテナの輸送経験がなく花王側の主導で鉄道輸送システムを構築した。しかしその後はISOタンクコンテナの専門知識を持つ営業マンがJR貨物に育っていると、松尾マネージャーも評価している。
さらに、コストを削減するため往復荷化を同社は模索している。工場間で相互に輸送している原料を同じISOタンクコンテナで輸送できればコストメリットは大きい。このため、和歌山工場に
ISOタンクコンテナ用の洗浄装置を設置した。(洗浄済みの札をつけたISOコンテナ)また他社と協力して往復荷化を進めることも考えられるとしている。
花王(株) 和歌山工場 JR貨物ニュース,2000年5月1日,5面
和歌山工場で生産する製品はおよそ8割が外販を含む油脂化成品,約2割が外販を含む油脂化成品,約2割が家庭日用品で,家庭日用品については,花王製品の販社である花王販売(株)を経由して取引先に納品され,鉄道コンテナは工場から販社花王販売の地域物流拠点倉庫までの商品補充に利用している。家庭日用品の輸送には通常の5トン汎用コンテナを利用しており,販社の物流拠点は全国に約80カ所ある。
これに対し油脂化成品は外に販売するものを除き大部分は自社製品原料向けで,この油脂化成品は川崎や酒田市等各地にある工場に液体タンクコンテナを利用して出荷している。同コンテナは輸送品目や輸送量によって私有の5トン,10トン,20ftISOコンテナの3種類を使い分けている。和歌山工場の物流に携わる花王のロジスティクス部門供給グループでは,鉄道コンテナを基本的に環境面で地球に優しく,低コストの物流手段として活用しており,工場から出荷する各種製品のうち,全体の約2割は鉄道輸送を利用している。
ところが,工場から出荷される鉄道コンテナは家庭日用品だけで出荷量が5トンコンテナで月間800個から900個,1日40個から50個(作者註,コキ8〜10両分に相当)あるため,限られたスペースの工場内の荷捌き場はコンテナの荷役作業に利用できず,10数キロ離れた和歌山コンテナセンターの一部を間借りして行っている。一方の タンクコンテナについては,同コンテナセンターでは取り扱いを行っていないため,さらに離れた梅田あるいは大阪(タ)駅まで直接持ち込んで発送している。
鉄道貨物輸送を利用して不便な点は,こうした貨物の集荷距離の長さと列車の発車時間に伴う荷役作業時間の制約,輸送リードタイムの長さなどが挙げられると供給グループの松尾氏は言う。さらに「荷主からの企画・提案に対してJR貨物は回答が遅く,弾力性を持たない価格体系も鉄道貨物輸送の魅力を失わせているのではないか」とも語る。ただ同時に和歌山工場ではこうした不便さがあっても,鉄道貨物輸送を応援する立場からコンテナ輸送を利用し続けているという。しかしJR貨物はまだまだ鉄道貨物輸送についてのPRが足りず,多くの物流担当者によく理解されていないところがあるように思え,営業活動についても「JR貨物本体の営業担当者と直接話をしたくとも交流が希薄に感じる」と松尾氏はいう。JR貨物本体の営業担当者にももっと企業を訪問し顧客とのコミュニケーションを図り,積極的な営業姿勢を見せて欲しいと松尾氏は要望していた。
〜JR貨物から 真摯に意見を受けとめ期待に添えるように努力〜
JR和歌山コンテナ基地は大阪市内から約80km南の,和歌山市の紀ノ川沿いに位置している。1986年11月に当時の「和歌山操駅」を廃止して「和歌山コンテナセンター」として生まれ変わり,1998年8月から日本通運(株)のコンテナ基地と一緒に現在の場所で営業を続けている。同センターは
全国一の発送量を誇り,花王(株)の扱いは,この3月で対前年比112%と従来にも増して多くの荷物を扱っている。特に最近はISOコンテナの利用を増やしている。
和歌山コンテナセンターは,鉄道輸送の復活を検討する価値がないだろうか?
JR貨物は和歌山コンテナセンターを移転 運輸タイムズ,1998年8月17日
JR貨物は和歌山コンテナセンターを1998年8月3日に、従来地から9km大阪寄りへ移転した。和歌山ふれ愛パーク整備事業計画に伴う措置。主要荷主会社への集配距離が約10km伸び、集配時間は増える。しかし大阪地区各駅との代行便の所要時間はほとんど変わらない。
コンテナセンターは1986年11月のダイヤ改正で誕生した。和歌山コンテナセンターは和歌山操車場駅跡地に設置された。主要荷主は花王(株)
やコスモ石油(株)など。現在のコンテナ取扱個数は1日約80個。代行便は、大阪地区にある梅田・大阪(タ)・安治川口・百済の各駅へ走る。配車手配などのとりまめは日本通運が担当。他に日本フレートライナー・合通・JR西日本マルニックスが代行便を運行する。各社、代行便専用のコンテナ3個積み車・2個積み車を使用している。集配車とは区別している。
新コンテナセンターの概要を以下に示す。
住所 和歌山市満屋西側139−3 敷地面積9300平方メートル
発送元 |
品目 |
輸送手段 |
発送駅 |
到着先 |
到着駅 |
備考 |
参考文献 |
花王 |
ビニサイザー85E |
鉄道輸送 タキ5950 |
浪速 |
?東京化成品T |
越中島 |
東京化成品Tは移転してしまった。 花王は和歌山に工場あり。 タキ5950(フタル酸ジオクチル) |
R133号 |
東邦ガス |
ナフタレン |
鉄道貨物 タキ |
名古屋港 |
花王 |
酒田港 |
酒田港には花王の工場あり。 嘗ては専用線もあり。現在の存否は未調査。 |
吉岡 |
花王 |
石鹸 |
コンテナ |
和歌山 |
? |
有田 |
H8.12百済 | |
花王 |
石けん |
コンテナ |
和歌山 |
花王 |
宮城野 |
H10.12宮城野 |
|
花王 |
薬品 |
コンテナ |
和歌山 |
相原運送 |
隅田川 |
H10.3隅田川 | |
花王(株) |
洗剤 |
コンテナ18D |
浜小倉 |
佐川急便 |
東青森 |
H11.3百済 | |
花王? |
ソープレス |
コンテナ |
酒田港 |
花王? |
百済 |
H11.2酒田港 | |
アルコア |
アルミナ |
UV1 |
黒井(信) |
花王(株) |
和歌山 |
H10.7宮城野 |
|
花王 |
フラン樹脂 |
タンクコンテナ UT4C 花王所有 |
豊橋 |
@? A? |
@札幌タ A浜小倉 |
豊橋港に花王の工場あり。『’92貨物時刻表』157頁 1991年10月,鋳物砂用の粘結剤「フラン樹脂」をローリーやドラム缶輸送からタンクコンテナによるバルク輸送に切り替え。 |
@H8.9豊橋 AH8.9豊橋 |
花王 |
パレット |
コンテナ |
札幌タ 五稜郭 |
花王? |
酒田港 |
酒田港から札幌タ・五稜郭へパレットを使って製品輸送が行われているか? |
H11.2酒田港 |
花王 |
脂肪酸 |
私有タンク車(計3両) |
酒田港? |
? |
末広町? |
酒田港は専用者:花王石鹸(株),B:日通,東曹産業(株),(株)小西安兵衛商店,住友化学工業(株) |
S54私有貨車表 |
花王 |
フタル酸ジオクチル |
私有タンク車 (計2両) |
末広町 |
末広町は専用者:花王石鹸(株),B:カロナイト化学(株),日新運輸倉庫(株),(株)小西安兵衛商店 |
S54私有貨車表 | ||
カロナイト化学(株) |
潤滑油添加剤 |
私有タンク車保有(計8両) |
末広町 |
||||
〃 |
石油類 |
私有タンク車保有(3両) |
末広町 |