日本の鉄道貨物輸送と物流:表紙へ
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 東邦亜鉛株式会社
2020.2.22作成開始

■はじめに  

1998.3安中駅
 安中駅の目の前にそびえ立つ東邦亜鉛(株)安中製錬所は、そこに引き 込まれる線路と共に実に壮観である。駅と製錬所の間に広がるヤードには、トキやタキ、そしてかつてはコキをも留まっており、鉄道貨物輸送の拠点であること が一目瞭然である。

 信越本線の高崎口は、かつて特急「あさま号」が行き交っていた時代には、複線電化の線路も相応しい華やかな幹線であったが、今や普通列車が時たま走るだ けの北関東の片隅で生き残るローカル線にすぎない。しかし安中駅では、東邦亜鉛向けの重厚長大な専用貨物列車が発着すると構内は活気に溢れ、今なお産業活 動と共に躍動する鉄道の存在を実感できる。

 東邦亜鉛は、今や日本唯一となった化成品の車扱専用列車の荷主であり、私有貨車の新製も行っており今後も継続して鉄道貨物輸送を活用する強い意志を感じ る。濃硫酸のタンク車輸送は姿を消したものの、一部はISOタンクコンテナによる鉄道輸送に転換した模様で、その動向には興味が尽きない。
 



■「東邦号」について  


▼1969(S44)年
小名浜製錬所から安中製錬所へ焼鉱を長距離ピストン輸送する
専用タンク貨物列車「東邦号」の運行開始

東邦亜鉛webサイトよ り)


▼専用貨物列車の輸送力利用による鉱滓の出貨誘致 (『国鉄線』 1981年8月号、p19)

 高崎鉄道管理局の1981年度夏期の増送。宮下〜安中間の亜鉛焼鉱はタキ15両編成で輸送している専用貨物列車だが、帰りは空タキ車のみで、一般車5両 の連結余裕を利用するため、鉱滓等をトラックから誘致し、期間中約3,000トンを契約し、増送を図った。


▼30年スパンの安定輸送めざし 私有トキ車12両製造  (1999年6月28日付『運輸タイムズ』2面)

2015.6大宮操 東邦亜鉛(株)所有のトキ25000 -1

《JR貨物は製造せず》
 非鉄金属大手の東邦亜鉛(株)は小名浜〜安中間で輸送している亜鉛精鉱の車扱輸送用に1999年春、私有貨車(無蓋の40トン積みトキ車)12両を製造 して運用を開始した。

 同社は従来、亜鉛精鉱をJR貨物所有のトキ車で輸送していたが、当該貨車が次々と更新時期を迎えるのに対してJR貨物は「今後、新製更新をしない」と決 定した。そのため東邦亜鉛は一昨年から輸送方式変更を含め対応策を検討してきた。

 その結果、従来とほぼ同じ構造のトキ車を私有貨車として自社で製造し、車扱輸送を存続させることがコスト的にも環境面からもベストと判断した。

 同社は小名浜港に輸入水揚げした亜鉛精鉱を、同社の安中製錬所まで毎日トキ車6両で輸送している。小名浜製錬所で半製品化した亜鉛焼鉱を積むタンク車 10両と連結した16両編成の専用列車で、発着双方で朝から積込み、取卸しのできるダイヤ構成となっている。

 亜鉛焼鉱はさらさらの粉状で飛散しやすい性質のためタンク車に積むが、亜鉛精鉱は比重の大きい粉粒体で飛散の心配が無いため無蓋貨車が合う。ただ水分を 避ける必要があるためカバー掛けは必須。

《増トンと作業性向上図る》
 今回の東邦亜鉛の私有トキ車は、JR貨物のトキ25000形式を踏襲しながら、積載量は36トンから40トンへ、また内面はステンレス貼りにして作業性 を向上。更にスピード性能は時速75kmから90kmにアップした。特に積載量増と作業性の向上を実現したのは、私有貨車の製造車数を必要最小限の12両 に抑えたことと関連する。

 JR貨物のトキ車はここ数年、全般検査を迎えるたびに減ってきてはいるが、昨年段階では同社用に6両編成を5〜6組編める車数が残っており、現段階でも まだ3〜4組ある。製錬所は土日も稼働しているが、土日に使う亜鉛精鉱は、予備車を発着双方に留め置いて積み卸しを平日作業に振り分けている。これは現状 は2編成以上の車数を運用しているから可能なことだ。

 だが1999年夏にもまた減車が予定されているJR貨物のトキ車がやがて無くなれば、12両の私有貨車を留め置く余裕なく回していかなければならない。 このため積載量増で平日の輸送量を1日あたり24トン増やすとともに、作業員配置の変更に備えて作業性の向上を図り、内部をステンレス貼りにして取り卸し やすくした。

 JR貨物のトキ車は各種貨物を載せてきた経緯から床の材質が鉄や木。凸凹部に亜鉛精鉱が付着して取り卸しに手間がかかっていた。

 一方、新製トキ車に東邦亜鉛としては、時速90kmの性能を特に求めたわけではない。現行ダイヤに満足しており、また連結して走るタンク車が時速 75kmの性能なので当分は90kmで走ることもできないが、JR貨物の私有貨車規定に沿い子の性能で製造された。

《環境面考慮し鉄道選ぶ》
 東邦亜鉛は何故私有貨車の新規製造を選んだのか。同社には当初JR貨物の提案を含めて選択肢がいくつかあった。さいたま新都心建設残土輸送用コンテナの 流用や奥多摩石灰石輸送用貨車の流用など。またトラックへの転換も検討対象だった。

 □残土輸送用コンテナは20ftタイプの10トン積みで「構造的には申し分ない」。ただ1日216トンの亜鉛精鉱を輸送するにはコンテナ22個、コキ車 8両が要るため、列車編成が現行16両より長くなってしまう。また36トン単位で行っている積込み・取卸し作業を10トン単位に変更するにも困難、として 見送られた。

 □石灰石用貨車は取り出し口が小さすぎた。水を嫌う亜鉛精鉱を水で放出させるわけにもいかず、断念せざるを得なかった。

 □トラックに転換した場合。小名浜〜安中間は220kmあり、1車1日1往復が限度なため、216トン運ぶには20トン積みトレーラーなら11台、11 人のドライバーが必要で、コスト的にも鉄道より割高だった。

 そこで東邦亜鉛はトキ車を新製して車扱輸送の存続を選んだ。「トラック輸送が車扱輸送より大幅にコスト安なら、結論は変わっていたかもしれない」と言い ながらも「トラックに比べて鉄道は安全性、環境負荷の低さなどで優れている」と評価。また30年スパンで考えると、運賃変動の大きいトラックに比べて「鉄 道の安定性は高い」として決断した。


■小名浜製錬所  

▼車扱輸送
品 目
着  駅
着 荷主
貨  車
備  考
濃硫酸
沼垂



濃硫酸
中条
(株)クラレ
タキ4000形
1998.8高萩駅で目撃
濃硫酸
羽前水沢
水澤化学工業(株)
タキ5750形
1999.4中条駅で目撃
濃硫酸
高萩
日本加工製紙(株)


濃硫酸
越中島
(株)東京液体化成品センター
タキ4000形

濃硫酸
新茂原
三井東圧化学(株)
タキ5750形

濃硫酸
本吉原
(株)矢部昭七商店
タキ4000形
2002.2吉原駅で目撃



■安中製錬所  

▼東邦亜鉛 攻めに転じる安中製錬所 リサイクル原料比率を向上 インジウムの回収も再開へ   (2005年8月30日付『化学工業日報』8面)

 東邦亜鉛は、亜鉛製錬を行っている安中製錬所の競争力強化を進めている。亜鉛は長らく国際価格の低迷が続いていたが、一昨年末から回復し、昨年は製錬所 として黒字化を達成し、昨年4月からは設備の近代化、合理化・効率化投資を活発化するなど守りから攻めへ転じている。国内資源の有効利用を図るためリサイ クル原料比率の向上、インジウムの回収再開など内陸型拠点としてさらなる積極策も開始している。

 東邦亜鉛の安中製錬所は、都内から最も近い亜鉛の生産拠点で、関東平野の北西の端、群馬県の高崎市に近い安中市に立地する。かつてはカドミウムによる汚 染が問題となったこともあり、住宅地に近い内陸製錬所として環境問題に十分配慮した事業運営を進めている。群馬県庁に直結した観測装置が8カ所設置されて いるが、所長である武田松夫常務執行役員は「ここ30年は有害物質の排出量は規制値をかなり下回った値を維持している」と述べ、公害防止設備は充実してお り、毎年4月には地元の住民を対象に工場視察会を開催、常に安全性、環境問題を考慮し、地域に開かれたオープンな工場としているという。

▽高低差利用の設計
 安中製錬所の特徴は、何といっても山の斜面に工場が設けられていることだ。80メートルの高低差を利用して上から下へと流れるように工程が設計されてい る。原料となる亜鉛精鉱は、福島県の小名浜製錬所で焙焼、焼成した亜鉛焼鉱と亜鉛精鉱が小名浜製錬所から毎日、貨車で輸送されている。焙焼することによっ て硫黄分が除去されるため、有効に熱エネルギーを使う目的で焙焼していない亜鉛精鉱を3分の1加えている。

▽リサイクルは万全
 能力は年間12万トン。品位53〜58%のため、約万24トンの精鉱を処理している。亜鉛精錬は、まず鉄や鉛を沈殿除去し、次に置換法でコバルトやカド ミウム、アンチモンなどを取り除く。その後、硫酸亜鉛として電気分解する。カソードの品位は99.998%が目標。電気亜鉛のうち8割はマンガンやアルミ ニウム、アンチモンなどと亜鉛合金に加工され、現在は約200種類の合金が生産されている。また硫酸は月産7千トン、鉄は4千トン回収でき、鉄は最終的に 50%にまで濃縮し、セメントメーカーなどへ販売するなど、棄てるもののない完全リサイクルシステムを構築している。

▽「都市鉱山」を開発
 現在は原料が高騰していることもあるが、国内資源を有効に活用するため電池リサイクル事業を開始している。乾電池は一人当たり30個、年間で90万トン が消費されているが、その中に亜鉛は20〜30%ほど含まれる。全種類の電池リサイクルを5年前から行っており、現在は7,200トン処理している。焼却 灰のリサイクルも開始しており、「リサイクル原料比率は電池リサイクル分も含めて10%程度だが、できるだけ早い段階で20%に引き上げ、近い将来は 30%を目指したい」(武田所長)と述べており、「都市鉱山」開発も強化していく方針。

 また、今年からはインジウムの回収も再開することになっている。86年に市況が低迷したことから回収を中止したが、近年電子材料などに使用され、その確 保が難しくなり、高騰したことから採算がとれるようになってきており、生産開始を決めた。現在、新プレス機や精製機を整備している段階で、9月には設備を 完成させ、11月から製品を販売する予定だ。

▼車扱輸送
品 目
着  駅
着 荷主
貨  車
備  考
濃硫酸
東新潟港

タキ5750形
1996.8焼島駅で目撃
濃硫酸
中条
(株)クラレ
タキ4000形
2004.2熊谷(タ)駅で目撃
濃硫酸
羽前水沢
水澤化学工業(株)
タキ5750形 2004.6酒田港駅で目撃
濃硫酸
越中島
(株)東京液体化成品センター
タキ4000形




■契島製錬所





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