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福岡港駅 〜須崎埠頭に 存在した九州各地への穀物供給拠点としての貨物駅〜
2019.5.5作成開始 2019.9.21公開
<目次>
はじめに
福岡港駅の関連年表
福岡港駅の貨物取扱量の推移
福岡港駅に接続する専用線
博多港サイロ(株)の鉄道貨物輸送
鮮魚列車「ぎんりん号」のコンテナ化

■はじめに  

 博多港は、国内有数のコンテナ取扱量を誇る国際拠点港湾であり、福岡市街地に隣接して数多くの埠頭が並んでいる。そしてそれら埠頭に向けて、鹿児島本線 から分岐する臨港線が敷設され、博多港、福岡港、福岡市場、福岡貨物ターミナルの各貨物駅が設置された。現在は、福岡貨物ターミナル駅を除いて全廃されて いるが、1990年代まで須崎埠頭に至る臨港線は、博多港駅の構外側線として活躍を続けていた。これら臨港線は、港湾地区のウォーターフロント開発のた め、痕跡が急速に失われつつあるが、全国各地に点在した臨港線の中でも、比較的近年まで存在したことは特筆すべきである。

 須崎埠頭は穀物サイロが集中立地し、今なお九州各地への穀物供給拠点として機能している。かつてはその輸送手段として、ホキ2200形を用いた鉄道貨物 輸送が盛んに行われていた。しかし「専用線一覧表」には、サイロ会社の名が現れず、九州内のホキ2200形の運用実態の情報も限定的で、今一つ実態が掴め なかった。ところが今般、国鉄が発行していた業界誌『国 鉄線』に須崎埠頭に立地する博多港サイロ(株)からの穀物輸送に関する興味深い記事を発見したため、輸送の全貌が見えてきたのである。

 公共臨港線廃止後には駅構内の低床ホームを利用するまでして、21世紀目前の1990年代半ばまでホキ2200形による小麦輸送を継続していたのだが、 今やその貨物駅跡地は福岡市街地に飲み込まれ、その当時の面影を感じることさえ難しくなっている。

 第19回「貨物取扱駅と荷主」は、博多港サイロ(株)を中心とした福岡港駅の穀物供給拠点としての歴史を纏めていきたい。

1995.3博多港駅(旧、福岡港駅) 
急 行越前様か ら大変貴重な写真をご提供して戴きました。 (2013.1.20)
ありがとうございます!!



■福岡港駅の関連年表  
年  月
出  来 事
1942(昭17)年07月
鹿児島本線貨物支線 香椎〜博多港(貨)開業
1954(昭29)年06月
鹿児島本線貨物支線 博多港(貨)〜福岡港(貨)開業
1961(昭36)年11月
須崎埠頭 那の津1工区が竣工([1]p469)
1962(昭37)年09月
日清製粉(株)福岡飼料工場が完成([3]p136)
1963(昭38)年10月
須崎埠頭 1工区及び2工区が竣工([1]p469)
1964(昭39)年02月
鹿児島本線貨物支線 博多港(貨)〜福岡市場(貨)開業
1964(昭39)年08月
博多港ニューマサイロ(株)設立
1966(昭41)年03月
博多港ニューマサイロ(株)は博多港サイロ(株)に社名変更
1966(昭41)年05月
博多港ニューマサイロ(株)の運転開始([2]p31)
1966(昭41)年10月
須崎公共臨港線が完成
1968(昭43)年06月
日清製粉(株)福岡飼料工場の専用線敷設([3] p139)
1970(昭45)年04月
玄海サイロ(株)設立
1975(昭50)年03月
鹿児島本線貨物支線 福岡貨物ターミナル駅が開業
1979(昭54)年07月
東福製粉(株)が須崎埠頭に小麦サイロ完成([5])
1979(昭54)年07月
初村第一倉庫(株)がサイロ須崎営業所を建設
1982(昭57)年11月
鹿児島本線貨物支線 博多港(貨)〜福岡市場(貨)廃止
(福岡港駅構内として存続、福岡港駅廃止後は博多港駅構内として存続)
1985(昭60)年03月
鹿児島本線貨物支線 博多港(貨)〜福岡港(貨)廃止(博多港駅の 構外側線として存続)
福岡港〜梅田間の鮮魚列車「ぎんりん号」をコンテナ化(『貨 物』1985年4月号、p15)
1986(昭61)年11月
日清製粉(株)福岡飼料工場、大洋冷凍(株)の専用線廃止([1] p117)
1987(昭62)年06月
東福製粉(株)が須崎埠頭に新工場を完成し本社を移転([5])
1991(平03)年03月
須崎公共臨港線が廃止([1]p117)
(ホキ車の荷役は旧福岡港駅低床ホームに移動して存続)
1996(平08)年03月
旧福岡港駅に該当する御笠川左岸以西の博多港駅の構外側線が廃止
1998(平10)年04月
博多港駅が廃止
1999(平11)年12月
日清製粉(株)福岡飼料工場が閉鎖([4]p479)
(※その他にWikipedia、『九州830駅』小学館、各社webサイトを参照)

([1]p115に加筆)



■福岡港駅の貨物取扱量の推移  

農産品
食料工業品
化学工業品
鉱産品
その他
小 計
合  計
年 度
発  送
到  着
発  送
到  着
発  送
到  着
発  送
到  着
発  送
到  着
発  送
到  着
総  量
1962 (昭37)










225,706
200,244
425,950
1965 (昭40)










114,217
174,540
288,757
1968 (昭43)
132,285
26,668
3,893
33,837
13,382
25,112
555
7,248
8,528
28,531
158,643
121,396
280,039
1969 (昭44)
162,081
31,483
5,862
42,152
10,113
31,680
650
18,573
9,277
44,350
187,983
168,238
356,221
1970 (昭45)
239,702
31,615
24,470
55,003
7,230
39,022
1,001
39,638
9,511
55,012
281,914
220,290
502,204
1971 (昭46)
287,398
42,968
7,893
46,977
8,583
40,729
425
33,163
8,052
34,391
312,351
198,228
510,579
1972 (昭47)
321,933
51,815
519
45,279
5,809
41,637
481
29,737
7,406
34,414
336,148
202,882
539,030
1973 (昭48)
320,709
46,526
12,057
43,400
5,642
36,391
275
20,988
4,799
44,229
343,482
191,534
535,016
1974 (昭49)
290,520
35,494
14,660
44,057
10,660
37,686
223
28,882
2,286
33,515
318,349
179,634
497,984
1975 (昭50)
330,987
27,226
909
38,741
8,965
34,453
467
28,056
3,309
28,967
344,637
157,443
502,080
1976 (昭51)
308,096
33,725
5,096
32,070
6,426
42,889

1,162
5,110
36,201
324,728
146,047
470,775
1977 (昭52)
286,499
37,615
1,548
36,554
3,623
37,895
25
1,258
5,399
24,786
297,094
138,108
435,202
1978 (昭53)
271,769
26,862
1,832
43,521
4,090
33,245

1,126
8,419
24,901
286,110
129,655
415,765
1979 (昭54)
257,491
29,519
2,198
37,214
1,848
32,359
140
925
1,723
19,212
263,400
119,229
382,629
1980 (昭55)
202,148
32,939
1,835
26,725
867
21,355
21,243
929
22,768
16,375
248,861
98,323
347,184
1981 (昭56)
206,562
20,903
2,580
22,694
550
15,992

614
158
12,830
209,850
73,033
282,883
1982 (昭57)
197,744
27,373
1,531
22,423
86
12,770

476
12,768
12,965
212,129
76,007
288,136
1983 (昭58)
167,580
17,812
1,216
15,950
216
10,439

299
19,666
9,527
188,678
54,027
242,705
1984 (昭59)
104,000
2,630
381
2,743
82
7,654

26
19,918
11,745
124,381
24,798
149,179
『福岡市統計書』より作成、セルがピンクは1968〜1984年度のピークを示す

*1982年11月に福岡市場駅が福岡港駅に統合され、その他に「水産品」が加わる
*1985年3月に福岡港駅は博多港駅に統合

2019.3博多港サイロ(株)


■福岡港駅に接続する専用線  
専 用者
第 三者利用者
1957
1961
1964
1967
1970
1975
1983
記   事
福岡市








須崎公共臨港線
日清製粉(株)
井出運送(有)







須崎公共臨港線分岐、一部太洋冷凍と共用
太洋冷凍(株)
東端商会







須崎公共臨港線分岐、一部日清製粉と共用
福岡市
日本通運(株)
博多運輸(株)









2013.4日清製粉(株)福岡飼料工場跡地


■博多港サイロ(株)の鉄道貨物輸送  
着  駅
工  場 名
鉄 道輸送
廃止時期(予想)
備   考
竹下
東福製粉(株)
1982年11月
竹下駅は1984年2月ダイヤ改正で貨物取り扱い廃止と思われる
1987年6月に福岡市中央区那の津に新工場が完成し、本社移転([5])
鳥栖
日清製粉(株)
1988年頃か?
日清製粉(株)鳥栖工場の専用線廃止時期は不明。拙web参 照
久留米
日本製粉(株)
1985年2月
日本製粉(株)久留米工場は福岡工場完成に伴い1985年2月閉鎖
羽犬塚
日清製粉(株)
1996年3月
羽犬塚駅は1996年3月ダイヤ改正で貨物取り扱い廃止([6] p415)
上熊本
熊本製粉(株)
1996年3月
羽犬塚駅向けと同様に福岡港駅からの小麦粉輸送が最末期まで残ったと思 われる
筑後吉井
鳥越製粉(株)
1984年1月31日
1984年1月31日をもって鳥越製粉(株)吉井工場の専用線廃止([7] p49)
佐賀
理研農産化工(株)
1984年頃か?
1976年2月の佐賀駅高架化後も鍋島駅所管として専用線が残る
鹿児島
東福製粉(株)
1971年11月
1971年11月に鹿児島工場の生産は本社工場(福岡市)に統合([5])
跡地はボーリング場(後に閉鎖)、専用線は無し
宮崎
高鍋製粉(株)
不明
高鍋製粉(株)の会社情報が無く、詳細不明
※着駅と工場名は[2]p31

 博多港ニューマサイロ(株)は、1966年3月に竣工し、同年5月にはアメリカ船の輸入小麦1万4,700トンの陸揚げで操業を開始した。国鉄の輸送対 策としては、1966年度の門司鉄道管理局の重点営業施策となり輸送体制の整備を急いだ。サイロに向けて福岡港駅から分岐する公共臨港線約1kmが敷設さ れることになった が、用地関係の問題で線路の完工が遅れ、同年10月頃開通の見込みである。([2]p31)

 そのため当初の貨車輸送は、福岡港駅及び博多港駅までトラックの横持ちとなり、麻袋包装輸送を余儀なくされ、バラ一貫輸送の実効は上がっていない。 1966年5月18日から6月12日までの輸送実績は、402車6,023トンである。([2]p31)

 1966年度の博多港の輸入小麦の入津は、主食関係8万トン、飼料関係6万8千トンの計14万8千トンが予定されているが、その内ニューマサイロを利用 して鉄道輸送となる数量は約6万トン程度となる見込みであ る。尚、飼料関係小麦は飼料工場が周辺に立地するため、鉄道輸送の対象とならない。([2]p31)

 公共臨港線の完成と着製粉工場のバラ荷受け体制が整備されることで、ホキ 2200形による一貫バラ輸送が実現し、流通経費の節減が期待されている。([2]p31)


須崎公共臨港線の開通([1]p115)
◆須崎公共臨港線の輸送量推移
年 度
輸 送量
年 度
輸 送量
1967 (昭42)
  5.4万トン
1979 (昭54)
 21.8万トン
1969 (昭44)
12.2万トン
1981 (昭56)
16.4万トン
1971 (昭46)
19.5万トン
1983 (昭58)
14.2万トン
1973 (昭48)
25.0万トン
1985 (昭60)
8.1万トン
1975 (昭50)
28.0万トン
1987 (昭62)
6.5万トン
1977 (昭52)
25.4万トン
1989 (平元)
7.1万トン
([1]p117より作成)

 上記表の着駅以外にも諫早向けに須崎公共臨港線からの小麦輸送が存在した。([1] p116)
 呉駅の着荷主は不明であるが、諫早駅は九州油糧工業(株)と思われる。同社は、専用線は存在しないが諫早駅に 隣接して立地し、側線でホキ2200形を荷役していたものと思われる。諫早駅は、1986年11月ダイヤ改正で貨物取り扱いが廃止されており、その頃に同 輸送が消滅したと思われる。

 1970年代半ばには須崎公共臨港線の輸送量は年間28万トンとピークを迎えたが、需要先である内陸製粉工場の閉鎖が進み、1980年代後半には同臨港 線の輸送量は10万トンを下回り、1991年3月に臨港線が廃止された。その後は、旧福岡港駅構内の低床ホームを活用して、羽犬塚、上熊本の両駅に向けて ホキ2000形による小麦粉輸送が継続した。最終的には、1996年3月に博多港駅の構外側線として残されていた旧福岡港駅構内までの路線が廃止され、お よそ30年に及んだ須崎埠頭から九州内陸部へのホキ2200形による小麦粉輸送がついに終焉を迎えた。



1995.3博多港駅(旧、福岡港駅) 
急 行越前様か ら大変貴重な写真をご提供して戴きました。 (2013.1.20) ありがとうございます!!



■鮮魚列車「ぎんりん号」のコンテナ化   
 鮮魚列車「ぎんりん号」は、福岡市場駅や長崎駅を拠点に大阪市場駅まで昭和40〜50年代にかけて高速冷蔵貨車(レサ)で走り続けていた。福岡市場駅が 1982年11月に福岡港駅に統合されたことに伴い、この輸送の最後の歴史に福岡港駅も関わることになったわけである。

 九州〜関東、関西向け鮮魚輸送は、1966年10月にレサによる輸送に主力を移し、速達化・直行化を果たしてきた。その後、レサの老朽化に伴い、 1984年2月のダイヤ改正で大阪市場駅着のみはレサを残し、更に1985年3月のダイヤ改正では大阪市場駅着についてもコンテナ化し、「ぎんりん号」の 全量コンテナ化が実現した。今後は、関東行きの「とびうお号」のコンテナ化という課題が残る。([8]p15)

私 有コンテナ
保有個数
輸 送量
輸 送力
長崎運送(私有)  150個
日本通運(リース) 60個
福岡港  17千トン
長崎   41千トン
計    58千トン
福岡港  コキ3両 コキフ1両 15個
長崎   コキ8両 コキフ1両 35個
計   コキ11両 コキフ2両 50個
([8]p15より作成)




[1]『博多港史 開港百周年記念』福岡市港湾局、2000年
[2]『国鉄線 通巻207号』日本国有鉄道、1966年
[3]『日清製粉株式会社七十年史』日清製粉株式会社、1970年
[4]『日清製粉100年史』日清製粉株式会社、2001年
[5]東福製粉株式会社webサイト 沿革  2019年現在
[6]『日本製粉社史 近代製粉120年の軌跡』日本製粉株式会社、2001年
[7]『50年の歩み』鳥越製粉株式会社、1985年
[8]『貨物 1985年4月号』鉄道貨物協会、1985年

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