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荒谷鉱業株式会社
2016.3.24作成


『Monthlyかもつ』1998年2月号、p11
 かつて鉱山と鉄道貨物輸送の結び付きは強く、鉱山内に張り巡らされる 専用鉄道だけでなく、貯蔵・出荷設備には国鉄や私鉄の駅から専用線が伸び、様々な鉱物や化成品の鉄道輸送が行われていた。しかし産業構造の変化に伴い、国 内の鉱山は石灰石を除くとその多くが1970年代までに閉山となり、鉄道貨物輸送の衰退も相まって、鉱山関係の専用線もその多くが廃止、撤去されてしまっ た。

 しかしここで取り上げた荒谷鉱業(株)の白土輸送は、専用線を介した輸送ではないものの、1990年代半ばまでトキ車による車扱輸送が行われ、一時的に トラック輸送に全面的に移行したものの、コンテナによる鉄道の再転換が実現したという稀有な例である。

 その経緯は、『運輸タイムズ』1997年5月19日付3面に詳細な記事がある。そこで、その記事を引用しつつ、筆者が気付いた点、気になる点をコメント してみた。

 秋田県大館市に本社を置く採石業の荒谷鉱業(株)は、ダンプカーで輸送していた活性白土を 1997(平9)年2月、コンテナ輸送に切り替えた。JR貨物と通運の働きかけによってコンテナ化が実現した。
 白土専用コンテナ(UM8A形式)は通運が導入した。従来は無蓋貨車のトキ(34トン)で輸送していたものだが、1996(平8)年3月のダイヤ改正で 発駅の大館の貨車扱いが廃止となり、トラック輸送に切り替え ていたが、約1年振りに再び鉄道に戻った。コンテナ化に当たっては、顧客への安定供給は鉄道 輸送で≠ニいう判断も同社にはあった。
 →いきなり根本的問題なのだが、荒谷鉱業(株)がweb上で検索をしても全く情報が出てこない。そのため同社が今も盛業中なのかどうか不明である…。こ の点は非常に気になるところである。
 →大館駅は小坂製錬(株)のタンク車の発着が2008年3月まで残っていたのだが、貨車扱い≠ヘ1996年3月に廃止されたというのは意外ではある。

 トキ車 による白土の輸送は発駅が大館、着駅は中条青海。トキ車当時の輸送量は200〜300トン/月。トラック輸送も一部行っていた。1997年2 月 のコンテナ化では全量を鉄道にシフトしたため輸送量は、300〜350トン /月に増加した。また着駅の中条は1996年3月のダイヤ改正で自動車代行駅と なったため、コンテナは新潟(タ)駅が基地駅となり、同駅〜中条間はトラック代行輸送を行っている。これによる輸送上の問題点は全く生じていない。
 今回、鉄道輸送を復活させた要因の1つは、輸送の安定性。顧客への供給は決められた数量を期日内に確実に届けることが原則。納期は特に厳しくないが、月 内に確実に納入することが不可欠。鉄道の特性である安全・確実性と定時・定型性を活かすことで安定した輸送を実現することができた。庸車によるトラック輸 送には、安定した供給の確保という面で若干の不安があった。
 輸送品質上の問題点も改善した。製品の白土は化学の分野で精製、脱色、油脂の除去、及び腐敗の防止などに重要な役割を担っている。トラックの場合、輸送 中はシート掛けを行うが、雨濡れなどによる品質上の問題がある。一方、コンテナは簡易蓋付きの天井が開閉式構造になっており、積載後は密閉した状態で輸送 するので濡損事故≠ネど輸送品質上の問題が無い。
 また大館駅発のコンテナ列車には余席があるため計画に沿った安定した出荷を維持することもできる。トキ車輸送は中条への所要日数が4日と長かったが、コ ンテナは翌日に到着し、スピードアップも実現した。
 →中条と青海の着荷主は、水澤化学工業(株)中条工場日本活性白土(株)青海工場と思われる。両工場とも近隣で白土を採 掘できる立地の筈だが、安定供給のため荒谷鉱業からも白土を調達していたのであろうか。又は白土の品質に差異があり、調達をしていたのかもしれない。
 →トキ車の輸送量は200〜300トン/月から計算すると、6〜9車/月程度になる。新専貨≠活用して輸送されていたのであろうが、車扱として継続 するには厳しい輸送量と言えよう。

 白土輸 送に使用するコンテナは日本通運(株)大館支店が導入した。12ft無蓋の白土専用コンテナにショベルカーで積載する。積載場所は秋田県鷹ノ巣地 区にある白土の採石現場。採取した白土は1カ所に集積してあり、この集積所で効率よく積載を行える。大館駅までの集荷距離は約20kmである。
 配達先ではコンテナをダンプアップさせて傾斜による自然落下で排出する。ダンプアップ機構付きの専用配送車両も日本通運が導入した。排出場所は、受荷主が指定する白土貯蔵場で、板状になったトラック停止位置から排出 すると貯蔵場に納まる構造になっている。
 トキ車輸送の当時は、発駅でトラックから貨車に積み替え、着駅でトラック に積み替えて受荷主へ搬入していたが、コンテナ輸送は積替作業が無くなったため輸送の効率アップと鉄道輸送の近代化が実現した。
 →中条駅に到着したトキ車は、水澤化学工業の専用線に入線せず、 駅のタタキでトラックに積み替えていたのであろうか。日本活性白土は青海駅に専用線は無く、トラックに積み替えるしか方法はないが、このような駅頭でのト キ車からトラックへの積み替え作業が1990年代半ばまで残っていたという事実は興味深い。

 トラッ ク輸送に転換した白土を鉄道に復活させるため荷主に働きかけを行い、コンテナ輸送を実現させたのは日本通運(株)大館支店である。JR貨物も日通 の働きかけには全面的なバックアップ体制を取り、協力を行った。輸送側のコンテナ貨物増送に取り組む熱意と、荷主の鉄道輸送に対する理解と協力があってコ ンテナ輸送は今回実現したといってよい。
 白土専用コンテナ(UM8A形式)は日通・大館支店が導入した。同支店は産 業廃棄物用に製造した未使用のコンテナがあるとの情報を得て、日通本社と連携を取ってコンテナメーカーに働きかけを行い白土輸送用として16個を新たに導入することを実現させた。
 コンテナは白土輸送に適合するか不安があったため荷主の協力の下で試験輸送を実施し、ダンプアップによって白土が完全に排出できるかを重点に調査した が、結果は良好との確認が出来た。試験輸送を含む同支店のコンテナ導入に至る対応と努力が、今回のコンテナ輸送を実現させた直接の発端となったと強調する ことができる。

 一方、コンテナによる白土輸送では配送用専用車を常備することが必要となったが、ダンプアップ機構付き専用車両は同支店の要請で日通・新発田支店が常備 した。専用車両も他支店の協力を得て川崎地区から導入した。
 白土の鉄道輸送及びコンテナの管理は大館支店が主体となって行っている。16個のコンテナを効率をよく回転させ、輸送の安定を図るため同支店は、付きの 前半〜中旬の間は大館〜中条間の輸送を行い、月の後半に大館〜青海間の輸送を行う方法を取り入れている。
 コンテナは大館〜中条間を平均3日で1回転するため16個を計画通りにフル回転させることで月間約250トンの輸送を月の中旬までに完了させることがで きる。配送専用車両も前半は中条駅着のコンテナ配送に使用し、後半は青海駅着の配送に向けるという機動的な動員体制を取ることも可能となる。
 →産廃輸送用にコンテナを作ったが、未使用になっていたという経緯も興味深い。輸送需要を見誤ったのだろうか。


2006.8大館駅
 このUM8A形式コンテナによる大館〜中条・青海の白土輸送は、残念 ながら2000(平12)年秋以後に輸送は中止されたとのこ とである(渡辺 一策「日本海物流の新しい流れ」『鉄道ダイヤ情報』2001年3月号)

 中止理由は不明だが、最初にも述べたように、荒谷鉱業(株)の情報がネット上で見つからず、荒谷鉱業が廃業した可能性も含め事情が全く掴めていない。

 2006(平18)年8月に筆者が大館駅を訪問した際に、当該輸送のUM8A形式が大館駅構内に留置されているのを目撃した。輸送開始から僅か3年半程 度しか使われなかった悲運のコンテナである。白土輸送≠ニいう珍しい輸送用だったため他への転用は難しいのだろうか。日通・大館支店は今なおコンテナに よる白土輸送の復活を夢見ているのかもしれない。


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